十五夜の月と黒いポツポツのお餅
子供の頃に、初めてフチャギを見た時は、「ギョッ…」と衝撃でした。
まんまるとかわいい餅とはだいぶ違って、フチャギは白餅の周りに黒い豆がポツポツポツとくっついています。お餅が大好きな私ですが、フチャギだけは試してみるまでに少しだけ時間がかかりました。幼かった私はまだ小豆の美味しさがわからず、「甘くも辛くもしょっぱくもなく、びっくりするほど味がしない…」というのが正直な感想でした。

フチャギは、旧暦の八月十五日に神様や仏様にお供えする餅菓子です。形は細長いエクレアに似て、ひと回り小さめ。おはぎは、小豆に砂糖を加えて炊いた餡を使うのに対し、フチャギは茹でた小豆を粒のまま使い、餅にも甘みを加えないため味は大きく異なります。軽い塩味の地域もあります。時代でしょうか、黒糖を加えた甘いフチャギも登場しています。
中秋の名月がのぼるジューグヤー(十五夜)には、その年の豊穣と子孫繁栄を願って供えました。仏壇や火の神(ヒヌカン:台所で火を司る神様)にフチャギを供え、祈るのは母たち女性の役割でした。ちょうど小豆の収穫時期、年に一度のタイミングです。
今でこそフチャギといえば楕円形ですが、以前は十五夜に作るからか、丸型だったようです。また、名前の由来も気になるところ。那覇市の市場本通りで60年お餅屋さんをしている「やまや」の兼島久子さんに伺うと、島の言葉でいっぱいになる、溢れるほどの豊作を「フチャーギン」と言うそうで、「フカギ」と呼ぶところも。また、豆の赤い色は厄を払う意味もあり、邪気を遠ざける力をもつ色と考えられていたようです。
年に一度、食に祈りや思いを込めて作られていた供え菓子。餅の白は月を、小豆は星を表しているとも言われているようで、想像すると真っ暗な空に映える月の光、その周りにも星がキラキラしているのかな?
「今日は売り切れましたねー」と、兼島さん。なんと、昔は年に一度のフチャギも今では地域の人たちの朝食やおやつにもなっていました。「夏場食欲がない時には、食べやすいみたいで、1個お茶碗2杯のお米の量が使われているから力もつきますし、甘くもないからご飯の代わりに食べている方も多いですよ」。一年に一度の祈りの場から、今では私たちの暮らしの中にある「フチャギ」です。
「これがあるんですけど」と持ってきていただいたのが、餅の年中行事カレンダー。なんと季節ごとの伝統行事とお餅の種類がびっしりと書かれていました。
年に26の行事と17種もの餅。フチャギはその一つです。餅を工夫しつつ、たくさんの祈りを込めてきたことを知りました。今年の十五夜は9月10日(土)、フチャギに思いを込めて満月の夜を楽しみます。
この記事を書いた人

中地香苗(なかち・かなえ)
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