空気の橋
沖縄で一番大きな島は、沖縄本島(1250㎢)である。そこには県都那覇市があって、私達の会社もそこにある。次いで大きいのは八重山の西表島(284㎢)である。
西表島にはイリオモテヤマネコが住んでおり、カンムリワシも飛び交い、セイシカの美しい花が咲き、マングローブも広がっているので、多くの方がご存知ではないだろうか。現在(2022年)石垣島から高速船が毎日20便以上も運航されている。
そんな西表島の東側には豊原、大原、大富、などの集落があり、そこから40㎞(補)離れた西側には船浦、上原、中野、住吉、浦内、星立、、白浜、船浮などがある。島の人々はそれら両地域を東部、西部と呼んでいるので、島に行くと、なんだかアメリカに来ているような気がする。
ある日、私はバイクを借りて東部を出発し、西部を目指した。寒かったので、雨具をウインドブレーカーにして走らせた。途中でバイクを停め、メモを取りながら進んだものの、休まずに西部の先まで行ってしまうのは無理。それでも浦内橋を過ぎ、西表小学校(祖納の手前にある)の側まで来ていた。
しばらく休もうとエンジンを止めた。バイクに寄りかかって息をついていると、目の前の森から新鮮な空気(酸素をたくさん含んだ空気)が自分に送られてきた感じがした。それを深く吸い、次に自分がはき出した。はき出された息は炭酸ガス(二酸化炭素)を多く含んでいるに違いない。その息が森に吸い込まれていくように感じられた。そんなふうに、森と呼吸しあっていると、森と自分の間に空気の橋がかかっているように思えてきた。直線ではなく、円弧の橋である。
そんなことを考えながら、西表島での調査を終え帰ってきた。

石垣島、西表島に分布するセイシカ(聖紫花)
アマゾンの森と私達の関係
今、私は書斎でこの文章を書いている。西表島で森と自分との間には空気の橋がかかっている、と感じた私は考えた。それは、南米のアマゾンに広がる大森林と自分との関係についてである。
地球上で空気は村々、島々をめぐっている。赤道を越えた遠いアマゾンの空気も、ペンを走らせている自分の書斎に流れてきているに違いない。その空気に乗って自分が出した息もアマゾンの森に届いていると思う。するとアマゾンの森と自分とは深い関係にあるといえる。
いや、私だけではない。地球上の全ての人は、アマゾンの森とも呼吸しあっている。アマゾンの森と私達とは、そんな深い関係にあるといえる。
(補)大原と祖納間の道路に沿った距離

渡久 山章(とくやま・あきら)先生
1943年生まれ、宮古島出身、琉球大学名誉教授。地球化学、環境化学を専門分野に海水の化学など数々の学術や論文で受賞する沖縄の水に関する専門家。
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