沖縄とんでもない物語・飲み物編 さんぴん茶
ぬるくても心からのウトゥイムチ
スーパーやコンビニ、自動販売機など、最近はどこでも手に入る沖縄定番のお茶「さんぴん茶」。日本茶のペットボトルと肩を並べ、盆や正月、運動会や誕生会でも老若男女に人気だ。爽やかな味とジャスミンの香りは、東アジアのお茶文化との繋がりを感じるようだ。沖縄でウチャトゥと言う、毎朝お仏壇に供えるお茶ももちろんさんぴん茶。暮らしの中でどのように親しまれてきたのだろうか。

イーノお客様担当の宮城順子さん(70代)に聞くと、子どもの頃は朝一番に「チューカー」と呼ばれる大きい土瓶にアチコーコー(熱々)のお湯を注ぎ、大量にお茶を作り置きしていたそうだ。「ぬるくなってもOK。沖縄は暑いから理にかなっていたし、家族も多いから何度も入れ替えるのは面倒ですよね」と笑う。
那覇市の第二牧志公設市場で、お茶・食料品の店「てるや」を構える高良さんご夫婦にも教えていただいた。先代のお父様から引き継ぎ、現在三代目。60年余、常連さんに支えられ、今では観光客も来店する。「沖縄では豚肉料理や油っぽい料理も多いから、さんぴん茶の少しの苦味と爽やかさがさっぱりして合う。甘いお菓子にもおすすめ」とのこと。

県外から嫁いできたばかりの頃、奥様は初めてお茶を出された時、そのぬるさに一瞬心がざわついた。でも、茶碗も茶たくもお客様用のようだし、お義母さんは「上等さんぴん茶だよ」と言う。暑い沖縄ではチューカーの文化も暮らしに根付き、ぬるいお茶もウトゥイムチ(おもてなし)の一つだと後で分かった。
ちなみに、前述の宮城さんは上京して勤めた会社で逆の体験をした。「お茶は作り置きはせず最後の一滴まで注ぎ切るように」と叱られてしまったそうだ。
さて、中国ではジャスミン茶を茉莉花茶(モーリファーチャー)と言い、福建省の福州市が一大産地。香片茶(シャンピェンツァー)と呼ぶ地域もあり、沖縄に渡った時に「さんぴん茶」となったようだ。琉球王朝時代から現代まで、中国、台湾との交流の歴史が刻まれている。
さんぴん茶もジャスミン茶もほぼ同じだが、厳密に言うと半分発酵させた茶葉に花の香りをつけるのがさんぴん茶で、渋みも少なくまろやかで飲みやすいのが特徴だ。発酵させない緑茶にジャスミンの花で香りをつけ、味や香りが強めにしっかり出るのがジャスミン茶。

初心者にも優しい淹れ方を「てるや」で教わった。急須や土瓶の大きさに合わせて茶葉の量を決め、アチコーコーのお湯を注ぎ、色が出て好みの味になれば飲み頃。湯呑みを温めておいたり、蒸らす時間を測る丁寧な淹れ方は徐々にコツを掴んでからでよし。茶葉も値段よりも好みで選んでと言われ、ペットボトルが馴染み深い私にとってはだいぶ敷居が低くなった。

そして、この歳になって初めて茶葉を量り売りで買った。少し誇らしく大人度が上がった気分だ。急須にお湯を注ぐとすぐに爽やかなジャスミンの香りが広がる。一口飲むごとに「ほわぁ~」と腹の底から嬉しいため息が出るくらい美味しい。次の週末は公設市場から近い壺屋焼ちむん通りへ、家族用の大きめのチューカーを探しに行こうかな。
ほんのり甘い香りに癒され、心がほぐれるさんぴん茶でほっと一息つきませんか。
この記事を書いた人

(お客様担当 あらかき・たみこ)
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