熱気と願いに染まるいなぐの世界
12月、那覇の街にはクリスマスのイルミネーション。なかには半袖Tシャツ、島ぞうりの人もいて、クリスマスと南国のコラボレーションが面白い。
イーノから徒歩3分のところにある牧志公設市場は県民や観光客などが訪れる。年末ともなると、正月の準備をするため女性たちが押し寄せ賑わいを見せる。ちょっと早いが、沖縄の正月を探しに行った。
大城うなぎ店二代目の新垣スミ子(あらかき)さんに1960年頃の牧志公設市場の様子を聞いた。「竿秤(さおばかり)っていうの。野菜もお肉もなんでも竿秤で測っていたよ。単位もグラムではなくて一斤二斤。うちのお店では今でも斤で出した。そうじゃないと、オバーたちがわからないの」と当然のように話す。斤というと食パンしか思いつかないが、沖縄では肉も魚も野菜も斤が単位だった。一斤=600g。大家族が多い沖縄ならではだろう。
年末は夜の12時までお客さんが途切れなかった。「お母さんに連れられて行った。沖縄そばはこっち、豚肉はこっち、味噌は、昆布は、って店が決まってて半日買い物をしてた。とにかく難儀だった、嫌だった」とイーノお客様担当、宮里静江さん。受付担当の湖城智子さんは「とにかく荷物が重かったのと母が怖かった」。年末の市場はお母さんたちの世界。さぞ賑やかで活気に満ちていただろう。
私もその場を体感したくタイムスリップ!
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市場は、生臭さと売り買いの熱気で包まれている。女店主が魚をさばき、肉屋ではナタのような包丁で断ち切る。青、緑、赤にピンクの水玉模様…の魚が丸ごと並ぶ。豚の胃、大腸、腎臓などの内臓や足、顎、耳など部位の肉は種類ごとに分けられ山のように積まれている。お母さんたちは肉を見分ける目を備えていた。質の落ちる肉は姑に怒られるのだ。
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背筋がちょっとヒヤッとしたら新垣さんの声が聞こえてきた。「お客さんとの話が楽しかったね。こうやって食べると美味しいよー、とか、しーぶん(おまけ)入れとこうねーとか」。最初は「私なんか話せることないよー」と恥ずかしそうにしていた新垣さんが昔の市場が蘇ってきたのかイキイキと話してくれた。沖縄の人は基本、人が好き。おしゃべりが好き。自分が知っていることは教えてあげたい、自分が知らないことは教えてほしい。人とのコミュニケーションが元気の源だ。
一年の締めくくりと来る年への願いがお母さんたちのパワーを生み出していることを年の瀬の市場が教えてくれた。
この記事を書いた人
井坂歩(いさか・あゆみ)
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