あんこの気持ちは大きくたっぷり
大人の手のひらサイズで特大の白いに、これまた大きく赤い「の」の文字。子どもの頃、行事ごとに祖母の家にいくと仏壇に供えられているお菓子の一つで、見た目、大きさ含めてインパクトの強いお菓子でした。

饅頭といえば、片手にちょこんと収まる可愛らしいイメージですが、この「のまんじゅう」は、ずっしり重みもあって、あんこがびっしり詰まっています。「商売はケチケチしてはいけない、中のあんこも絶対減らしてはいけない」とは、創業者のハルさん(1924年〜2014年)が家族に残した言葉です。

伝統菓子といっても、スーパーで普通に売っているものも多く「みなさん、おやつに選んでいきます」と店員さん。チョコやケーキと同格だ。長く親しまれている秘密を知りたくなって、那覇市首里にある創業100年を超える老舗「ぎぼまんじゅう」を訪ねてみました。
携帯の地図をみながらたどり着いたお店。車を止めて降りた瞬間、ワーっとただよってきた(サンニン)の香り、「あ〜いい匂い」と深呼吸してしまうほど、お店の外まで充満していたのです。「のまんじゅう」を包む月桃の葉っぱは、殺菌作用が高く、昔から沖縄ではお餅を包んだりして、保存料を使わず自然の効果を活用していました。
お店の壁には有名人のサインがたくさん。お店を見渡しながら注文。
「『の』の字はつけます?」と店員さん。「はい、お願いします」とは言ったものの、事前情報がなかったら戸惑っていたかも。何かの本で読んだ「『の』を入れるか入れないかは、選べるらしい」。本当にそうなのかドキドキしながら店員さんに「3つください」と注文したところ、第一声が「『の』の字はつけます?」でした。
調べてみると、「のまんじゅう」は、お祝い事全般には朱色で「の」が書かれたものが使われ、真っ白のまんじゅうは、法事用として利用されていたのです。てっきり、「のまんじゅう」というくらいだから「の」無しの選択肢があるなんて考えてもみませんでした。ちょっと驚いていた数秒の間に、奥へ入って行った店員さんがすぐにまんじゅうの包みを持って現れました。
「えっ?今書いていただいたんですか?」
「はい」
あまりの早さに戸惑いましたが、家に戻って包み紙を開けてみると、真っ白なまんじゅうに溢れんばかりの大きな「の」の字が3つ並んでいました。出来立てで温かいまんじゅうに、温かみのある手書きの「の」の字。色の濃さも微妙に違っていて、つい眺めてしまうくらいなんだか幸せな気分になりました。

ちなみに、気になる「の」の字は何のことだろうと聞いてみたところ、「熨斗」の「の」でした。熨斗というと、朱色の「の」に思いを込めて祝いごと全般に使われて広まったようです。
贈り物といえば、きちんとした包装に熨斗というマナーも大切ですが、相手への気持ちを簡潔に、時には大胆に表現することを「のまんじゅう」から教えてもらった気がします。沖縄の伝統菓子には、気持ちを込める秘訣が詰まっていました。
この記事を書いた人

中地香苗(なかち・かなえ)
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