自然と人と炎が織りなす風合い
石畳の道とその脇にポツリポツリと建つ赤瓦の工房。その光景に気持ちが高まる。
那覇から北へ車で約1時間、読谷村(よみたんそん)は本島中部、世界遺産のやサトウキビ畑、その先に広がる紺碧の海など自然豊かな地域。やちむん(焼きもの)や織物のなど伝統工芸も受け継がれている。「とにかく地元愛が強くて、読谷の女性は世話好きでちゃきちゃき働く」と読谷村出身の同僚の言葉を思い出した。今日はそんな読谷村にあるやちむんの里へ向かった。
やちむんの里には代表的な3つの登り窯と19軒の工房がある。陶芸で沖縄初の人間国宝、金城次郎さんが登り窯にこだわり読谷を選んだ。その後も多くの陶工がこの地に集まった。
車から降り、散歩気分で歩く。のんびりした空気が流れている。常秀工房と書かれた看板に誘われるがまま島袋常秀さんの工房に向かった。ぼてっとした直径20 cmほどの皿に沖縄の県花、デイゴのような赤絵の大胆な模様。大皿が目立つ。家族、親戚や友人など大勢に食事を振る舞う文化ならではかもしれない。紺色、緑色、茶色など様々な色が使われている。海、植物、土など沖縄でよく見る自然の色だ。
触ると、一枚一枚微妙に感触が違う。自由さの中にも琉球王朝時代の頃から受け継がれてきた「いっちん」や「線彫り」などの伝統的な技法が使われている。いっちんは、スポイトで釉薬を絞り出して表面を立体的に装飾する技法だ。ツルンとした模様とザラザラした土の感触が新鮮だ。線彫りの魚模様は子孫繁栄の願いが込められているそうだ。伝統を守りながらも新しいものにチャレンジしている。やちむんの里は自由に個性が発揮できる新しい空間となっていた。
工房を出て右に進むと、斜面の上に赤瓦の屋根、土で頑丈に固められた25 mもある登り窯と出会った。焚き口に薪をくべると斜面に沿って登るように火の熱が伝わっていく。火は1200度以上になり4日間燃やし続ける。風や湿度によって変わる炎。経験をもとに薪のくべ方を調整し焼いていく。全て人の目と手と感覚が加わっているのだ。自然と人と炎によって独特な風合いが生まれる。
頭にタオル、一輪車を押す陶工らしき人とすれ違った。ここには陶工たちの暮らしと鍛錬の場が広がっていた。私が感じた「入りにくさ」とはこの張り詰めた空気だった。憧れと強面を感じさせる中に神聖ささえ覚えた。
誕生日が近い父へのプレゼントを選んだ。一緒に呑めるチブグヮー(お猪口)を2つ、父の手に馴染みそうな少し厚めの方を。
記事を書いた人
井坂歩(いさか・あゆみ)
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