「おはよう。はい、飲んで」
夏休み、ラジオ体操に急ぐ小学生の私に、父が差し出すコップには緑色の液体が並々と注がれていた。父が育てたゴーヤーで作ったお手製のゴーヤージュースだ。
「ゴーヤーはね、ビタミンCたっぷりで、いろんな栄養も入ってるさー。だから夏も元気が出るよ。はい、飲んでごらん」
同じ説明を毎朝繰り返す父の声をBGMにゴクリと一口。予想を裏切らない青臭さと苦味が口中に広がる。一瞬顔をしかめてコップから口を離すが、じっと見つめる父に気づき慌てて一気に飲み干した。
庭の片隅の一畳ほどの畑で、ゴーヤーを育てるのが父の夏の日課だった。ナショナル製(現パナソニック)の朱色の蓋がついた重いミキサーで、ギュイーンギュイーン!とゴーヤーとリンゴを粉砕する甲高い音とセミの大合唱が競い合う朝は、私が結婚して家を離れるまで毎年続いた。
そして、今年も夏がやってきた。沖縄の夏はゴーヤーだらけだ。弁当屋やスーパーの惣菜コーナーにはゴーヤー弁当が並ぶ。沖縄生まれのファーストフード店Jef(ジェフ)では、夏季限定で「フレッシュゴーヤージュース」が登場、国際通りのパーラーでは試してみようと果敢に挑戦する修学旅行生の姿も多い。ヘリオス酒造のクラフトビール「ゴーヤーDRY」も人気だ。そして、わが家の冷蔵庫には三ヶ所からいただいたゴーヤーが8本!
私は子どもの頃から、父が作るゴーヤージュースを飲んで育ったので、てっきり周りのウチナーンチュ(沖縄の人)は誰もが飲んでいると思っていた。しかし、10人中の半分以上が「わざわざジュースは作らないさ〜」「苦くて飲めない。肉や豆腐が入ったチャンプルーだけ」というので驚いた。わが家の当たり前は当たり前ではなかったのだ。
父はなぜゴーヤージュースを作り続けていたのだろう。
「ゴーヤーには育てる楽しみ、あげる楽しみ、食べて飲む楽しみと色々あるんだよ。人にあげて喜ばれたら嬉しい。お礼に立派なマンゴーをいただいたこともあったよ」と笑う。苦いゴーヤーが甘いマンゴーに変わるなんて!ちょっとした「わらしべ長者」⁉これも沖縄あるあるの一つ。「でも、一番は子ども達が夏負けしないで元気に過ごせたらいいなと思ってたね」
子どもの頃はあんなに嫌いだったのに、今、無性に飲みたくなる父のゴーヤージュース。今年、私も作り始めた。簡単に作れて少しでも飲みやすくなるようにバナナ、ヨーグルトを加えてスムージー風にアレンジしている。そして、逃げ回る中1・小4・小1の三人息子に父と同じように「飲メー飲メー攻撃」をしながら愉しんでいる。
皆さんも、食べるだけじゃもったいない、ゴーヤージュースにこの夏挑戦してみませんか?
(お客様担当 あらかき・たみこ)