沖縄とんでもない物語・飲み物編 ぶくぶく茶
古都で見た、茶器に浮かぶ秋の雲
秋の三連休、子どもたちに「ぶくぶく茶を飲みに行こう!」と声をかけ、首里城下のの池近くにある喫茶「嘉例山房(かりーさんふぁん)」へ向かった。やちむん(沖縄の焼き物)や骨董品、沖縄関連の書籍が並ぶ二階席へ案内され、おすすめのぶくぶく茶のセットを頼む。
さて、「ぶくぶく茶」と聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか?息子たち(小1、小4、中1)は、「口をブクブクして飲むもの」「炭酸みたいにブクブクしていそう」「お湯が沸く時みたいな感じかな」と想像を膨らませているようだ。
現代に蘇る幻のお茶
しばらくすると、直径20センチあまりの大きな木鉢と通常の2.5倍はある長い茶せんが運ばれてきた。「でかっ!」と三人が叫ぶ。木鉢には煎米(炒った米)を煮出した煎米湯とさんぴん茶(ジャスミン茶)、番茶が入っていて、茶せんを左右に振りながら泡を点てていく。「本当に泡になるの?」と不思議がっていた子どもたちもすぐにコツを掴む。
店主の大城つきこさんに歴史を教えていただいた。600年以上の歴史があり、琉球王朝時代には中国からの冊封使などをこのお茶でもてなしていたそうだ。もともとは「福福(ふくふく)」だったのが「ぶくぶく」となり、特に那覇のまちではめでたい縁起のいいお茶として庶民にも親しまれ、成年祝いや船出の時にも飲まれていた。船旅は命懸け。無事戻って来れますようにと祈りも込められていた。
沖縄戦により40年近く途絶えてしまうが、1990年頃から保存会や大城さんのお母様も携わった茶道の会の皆さんの尽力により現代に蘇ったのだ。
そんなぶくぶく茶のきめ細かい泡に欠かせないのが煎り米を煮出す時の水、琉球石灰岩から湧き出るミネラルたっぷりの「硬水」だ。南城市にある(「いなぐ・いきー」7月号で紹介)まで、湧水を汲みに行くというのには驚いた。
さて、夢中になって泡を点てている最中に、器にこんもりと泡が盛られた一杯が運ばれてきた。「かき氷⁉」「わたあめみたい」「大盛りご飯じゃん!」と子どもたちが口々に叫ぶ。泡を食べながら器のお茶も一緒に飲むよう教えてもらい、期待感たっぷりに泡をカプッと一口ほおばると…。一瞬の間の後、「甘くないね」「泡だね」「お茶の味だ」。抱いていたイメージとはギャップがあった様子。お茶の心と奥深さを感じ取るには少し早過ぎたようで、三人の関心は沖縄の伝統菓子やフルーツへと移っていった。
私はふわふわの泡を何度もおかわりして、口に含むとすっと溶ける不思議な食感を楽しんだ。そして、泡にかけたピーナッツ粉のほのかな甘さと、香ばしい煎り米や爽やかなさんぴん茶の香りを堪能した。
帰り道、龍潭の向こうの首里城を見上げると、再建中の正殿の上に秋の入道雲が泡のように乗っかっていた。
この記事を書いた人
(お客様担当 あらかき・たみこ)
ご感想は、tamiko@e-no.comまで !
ありのままの沖縄を感じる逸品、
e-no shopはこちら (https://e-noshop.com/)