スマ(島・古里)ウツ(言葉)(二)
先月は島の言葉として「ナンミー・カーラカス・ニャーン(なめて乾かすように)」を取り上げた。今回は「テイダ・ヌ・カザ」と「スサーフアーン・ピャーノーマガマ」の二つを紹介したい。
ティダ・ヌ・カザ(太陽の匂い)
「ウワドー、ティダヌカザヲバー、カミイヤミーンノ?(あなた達は、ティダ、太陽のカザ、匂いをかいだことはないか?)」、やがて八十を迎えるという母が問うてきた。
「スサン、ナヲヤシイノコトガ?(知らないよ、どんなこと?)」と問い返したら、「天気のいい日に毛布や布団を干すでしょう。そうして干した毛布や布団をかけると、ほら、プーンといい香りがしてくるでしょう。あれがティダヌカザだよ」「それでおばあさんは、ティダヌカザア、カバスモノヤイバ、イダシイポシハイ(太陽の匂いはいい香りだから、出して干してよ)」と言っていたんだよ、と話してくれた。
干された寝具をかけると、それらは暖かい空気に満たされ、膨らんだような感じがする。フワフワ君と言ってもいいような感じ。含まれていた水分が蒸発し、水が占めていた場所に空気が入れ替わっているからでしょう。同時に干す前とは違った香りがプーンと流れてくる。いい気持ちで睡眠に入っていける。
ティダヌカザ、という宇宙的な広がりを持った言葉を私は初めて聞いた。自然と一体になった世界で生活してきた祖母や母ならではの言葉だと思う。
物質的解釈はいろいろあろうが、私は「ティダヌカザ」を島の言葉の一つに加えたい。
外では今日もティダ(太陽)ガナス(さん)が輝いている。
スサーファーン・ピャーノーマガマ
今から70年程前、島に自転車が入ってきた頃のことである。
造り酒屋の我が家にも酒販売用にと、入ってきた。祖母はそんな自転車のことを、スサーファーン・ピャーノーマガマ(草を食べない速い馬)と呼んでいた。「自転車」という新しい言葉になじめなかったのか、理由は定かでないが、そう呼んでいた。
自転車が入る前、島での乗りものは、馬か馬車であった。酒販売には馬車を使っていた。そんな中自転車が入って後は、馬車はその役割を自転車に譲った。自転車は祖母が言うように草を食べないし、出発前の準備も馬車に比べると容易で、商家にとっては、とてもありがたい道具であった。
その頃、島にはラジオもなかったので、天気予報は人の経験が頼りであった。
酒販売の兄さん達が出かける時はいい天気だったのに、帰る頃(夕方)になると、雨風が強くなり、帰宅が遅くなる日もあった。電話もなかったので、連絡も取れず、気丈夫な祖父でさえ、兄さん達のことを思い「大丈夫だろうか?」と気をもんだ。ところが側にいた祖母は「アッソガ(しかし)スサーファーン・ピャーノーマガマ・ヤイバ(ヤイバは、だからの意味)、大丈夫」と言って、祖父の気をそいでいた。
祖母は自分が見つけた(発明した)言葉で祖父を応援していた。
渡久 山章(とくやま・あきら)先生
1943年生まれ、宮古島出身、琉球大学名誉教授。地球化学、環境化学を専門分野に海水の化学など数々の学術や論文で受賞する沖縄の水に関する専門家。
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